当店ダンスク ムーベル ギャラリーにて取り扱いを始めましたポール・ケアホルムの幻の3作品。先日より店舗にて展示しております。
本日はその中から、ダイニングチェア“PK12”につき画像を交えご紹介したいと思います。少し専門的な込み入った内容もありますが、どうぞお付き合いいただければ幸いです。
デンマークデザインの黄金期でもある1950~1970年代を中心に活躍したデンマーク人デザイナー、ポール・ケアホルム。彼は1960年代初頭、木材を曲げて製作をする「曲木のチェア」に興味を持ち、曲木のチェアデザインに挑戦しました。しかし、当時のケアホルムは曲木の技術に限界を感じ、素材をスチールに変えた上でこちらのPK12のデザインにたどり着きました。
PK12の基本的な構成部材は、①座枠、②前脚、③後脚、の3つのみ。ケアホルムの作品に共通する「少ない要素で椅子を構成する」という特徴がPK12にも表れています。横から見たときの一筆書きのような大変美しいシルエットも他の作品同様です。
このPK12で一番目を引くのは、前脚と後脚が接していないことです。各々が独立した構成となっており、荷重はすべて座枠との接合点にかかります。素材が木材ではこのような構造は難しいと思われ、スチールの特性を最大限に生かしたケアホルムならではの構造と思います。
スチールという素材の可能性を最大限に活かしたいわば「力技」のような構造ですが、それでいて優雅な佇まいを維持するのはさすがであり、ケアホルムがどれだけスチールの扱いに長けていたかが見てとれます。また、身体に接する部分には暖かみを持たせるため、座面にはレザーを用い、背もたれ部分にはレザーを編み込んでいます。こちらのレザーの編み込みも大変美しい仕上がりです。
他の作品でも共通ですが、ケアホルムの家具は「スチールの特性を限界まで突き詰めたその構造からくる緊張感」と、それでいて「どこかしら暖かみを感じさせる素材・仕上げの使い方」が絶妙なバランスを生み出し、他にはない一種独特な雰囲気を醸し出しています。東海大学名誉教授の織田憲嗣先生も「ポール・ケアホルムのデザインの魅力は、何と言っても『心地よい緊張感』」と語っておりますが、この「心地よい緊張感」が多くの方を虜にするのだと思います。
なお、PK12は他のケアホルム作品とは少し異なる点もございます。一点目は、金属が丸いスチール管であることです。他のケアホルムの家具は平たい「フラットバー」が多く、その点でこちらの作品は少し珍しい作品と言えます。
二点目に、スチールを光沢感のある仕上げにしていることです(基本的に他のケアホルムのスチールはマットな仕上げになっています)。その理由としては、次のような説があります。丸いスチール管を鏡面仕上げにした場合、スチール管の曲面部はその形状と相まってその境界が不明瞭となり、スチール管の真ん中にあたる「垂直方向」がより強く認識されます。PK12では、丸いスチール管を用い、表面を鏡面仕上げにすることで、垂直方向の認識をケアホルムがより求めていたのではないか、という話です。
スチールの特性を最大限に活かし、「心地よい緊張感」という唯一の領域を切り開いたポール・ケアホルム。PK12にもそのような特徴が大変良く表れています。
ケアホルムの家具は一見すると同時代のデンマーク家具とは明らかに異なるように見えますが、その本質は伝統的なデンマーク家具の本流と言えます。本日は最後に、そのようなケアホルムの家具につき武蔵野美術大学名誉教授の島崎信先生が書かれた文章を引用させていただきます。
「当時は世界的に北欧デザインの全盛期であり、とりわけデンマーク・デザインの黄金時代と言われていた。
それを支えていたのは、フィン・ユール、ハンス・ウェグナーをはじめとする、人間の手のぬくもりを感じさせるソリッドの木製家具だった。
そんな中での、金属フラットバーによる最小構成材からなるデザインの発表には、大きな勇気が必要だったであろうことは容易に想像ができる。
批評家や家具業界からの反応は、半ば戸惑いを含みながらも好意的なものであった。
構造材は金属でも、デンマーク家具の伝統である、美しい造形性と手仕事を感じさせるような心配りのゆき届いた細部の仕上げを、揺るぎなく持っていたからだろう」
【ダイニングチェア PK12】
□ 1967 – 1977 E.kold Chistensen A/ S,2007 R Galler y / Sean Kelly Gallery 1964/2007
□ H68cm × W63cm × D52cm
□ Stainless steel and leather
□ 2,100,000 円(税抜)
DANSK MØBEL GALLERY(ダンスク ムーベル ギャラリー)
▽株式会社KEIZOグループ店舗
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