本年8月上旬、ダンスクムーベルギャラリーに5台の「ベアチェア」が並びました。まるで手足を伸ばしたクマの様なかたちの愛らしさ、そしてそのバリエーションの豊かさと職人の技術の見事さを感じさせる姿です。この展示にあわせて、トークイベントも開催いたしました。お話しをしてくださったスカンジナビアンリビングの羽柴健さんは、ベアチェアの魅力を存分に語ってくださいました。参加していただいた皆様も、思い思いにその座り心地を試され、なごやかな会となりましたこと、あらためて御礼申し上げます。
職人の技を感じさせるベアチェアは、1953年より創業を続ける家具工房PPモブラーの製品です。トークイベントでは、羽柴さんにウェグナーが永い時間をかけてこの工房との協働を育てていった経緯など、なかなかお聞きすることのできない大変興味深いお話しも伺う貴重な機会となりました。
優れたプロダクトは、いかに優れたデザインがあっても、またいかに優秀な技術をもつ作り手の存在があっても、一方だけでは成立しません。両者が出会い、協働があって、はじめて成立するものです。ものづくりをする者ならば、だれもがそうした協働に憧れることと思います。ベアチェアは、そうした出会いに恵まれた協働の結晶であったと言えます。このような協働が可能となった背景について考えてみました。
PPモブラーは、1953年にアイナー・ペダーセンとラース・ペダー•ペダーセン兄弟によって創業されました。1948年より創業までの数年間は、クヌイ・ヴィラセンと家具工房を立ち上げ、共同作業を行いました。クヌイ・ヴィラセンは、ペダーセン兄弟が職人修行をしたソーアン・ヴィラセンの息子です。この間に様々なデザイナーとの出会いと実験的な作業を経験し、PPモブラーの誕生へとつながりました。そして品質に対する妥協のない姿勢と家具製造を実験的な角度から捉えた開発がPPモブラーをさらなる成長と発展へと導いていきました。
ウェグナーとの長きにわたる協働のきっかけは、アイナー・ペダーセンとウェグナーのベアチェアの製造についての話し合いがきっかけであると言われています。張り地に覆われてしまう部分のつくり方について、ウェグナーとアイナーの意見は分かれました。人の目に触れない部分であっても完璧な仕事をしたいと主張したアイナーの職人魂に触れ、ウェグナーは同じものづくりを志す者として、アイナーに感服します。
そこから互いに認め合う関係が形づくられたのです。
協働には、この「共につくる」という両者の意識と、互いに対する信頼が不可欠のように思います。
PPモブラーの品質を支えるものは何か、またあらためてお伝えしたいと思います。