リ・デザインの発想
コーア・クリント
デンマークデザインの父、コーア・クリントは『家具デザインの本質的な問題は過去5千年の間に解決されており、その歴史は豊かなインスピレーションの源である』との考えをもとに『リ・デザイン』を提唱しました。
過去のデザインを時代に合うよう解釈・再構築し、デンマーク近代家具の道筋を作った人物です。
ポール・ケアホルムはこれまでの歴史的な家具に独自の素材(スチール)の可能性を適応させ、シンプルなデザインを追求しました。
1961年にデザインされたPK91もその一つです。
プロペラスツール
コーア・クリントがデザインしたプロペラスツールは1930年に発案されました。
このデザインは古代エジプトの折りたたみ椅子から着想を得たといわれています。
丸い彫刻が施されたアッシュ材の脚はスツールを折りたたむと円筒形になるように設計されており、製作が困難とされた当時最先端のデザインでした。
1957年、後を引き継いだオーレ・ヴァンシャーはローズウッドとレザーを用いて当時のプロトタイプを再現し、実現に向けて作業を続けました。
このような前例を背景に、ケアホルムはPK91のデザインに取り掛かりました。
PK91の構造
スチールが可能にしたデザイン
PK91のフレームには、フラットなスチールバーが使用されており、この素材の強度によってケアホルムは従来のフォールディングスツールのモデルを一変させました。
彼はまず、脚をつなぐ横木を床に接するまで移動させ、四角形に溶接された2枚のフレームに単純化しました。
フレームの長辺がスツールの脚となり、強度を高めるためにねじれています。
当初フレームのエッジは僅かに丸みを帯びており、側面から滑らかに繋がっていました。
これまでの木製のフォールディングスツールは、脚部が交差する位置を座面の左右に配置して木製のフレームの広がりを小さく抑えていました。
ケアホルムが考案したねじれたスチール製の脚は、十分な強度を持ち、より広い可動域を持つことが可能となりました。
そのため、交差した足がスツールの前後になるよう構造を90度回転させるデザインが生まれたのです。
魅せる構造
PK91フォールディングスツールは、2枚のスチールのフレームを開くとシートが広がります。
シートは表と裏に2枚のレザーを張り合わせてあり、端に縫い付けられたバンドをフレームに巻き付けて固定します。
2枚のフレームの接点には、ボールベアリングが採用されています。
このような細やかな配慮がケアホルムの製品の魅力の一つであると考えます。
92°と88°の平行四辺形
通常、スツールは一つのフレームの中にもう一つのフレームが入れ子になっていて、スツールをたたむと二つのフレームは綺麗に重なりません。
ケアホルムはスツールを折りたたんでも、広げても、どちらから見ても美しくなければならないと考えました。
これを実現するために、フレームは入れ子にせず、一方に組み込んでから溶接しています。
また、フレーム1枚分の厚みによって起こる歪みを解消するため、フレームはそれぞれ88°と92°の角を持つ、平行四辺形としました。
コル・クリステンセン工房からフリッツ・ハンセンへ
1962年、PK91はコル・クリステンセン工房によって生産が開始されました。
しかし、1980年、ケアホルムが若くして亡くなると、コル・クリステンセン工房は生産を終了します。
ケアホルムとアイヴァン・コル・クリステンセンとの深い信頼関係についてはこちらのブログでご紹介しております。
そして1982年には、フリッツ・ハンセン社での生産が開始されます。
デンマークの美術工芸学校を卒業したケアホルムは、約一年間、フリッツ・ハンセン社に勤めていたことがありました。
その経緯から1951年から1967年にかけて手がけた『ケアホルムコレクション』の製造と販売を担うこととなったのです。
PK91は、スウェーデンのヨーテボリにあるロースカミュージアムのパーマネントコレクションに含まれています。
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