ポール・ケアホルムは1957年、この美しいネストテーブルPK71をデザインしました。
ケアホルムが活躍するきっかけを作った、PK22、PK61がデザインされた翌年のことで、1957年には他にもPK80などが発表され、若きケアホルムの輝かしく充実した心持ちが感じ取れます。
PK71の構造
PK71の角鋼のフレームは美しい立体を強調するため、余計な金具を用いず溶接されており、互いに重ねて収納ができます。
天板はアクリル製で小口に溝が施されており、見え掛りが非常に薄く仕上がっています。
PK71の素材
さらっと言いましたがアクリル製です。
磨き上げられた美しい光沢を湛えたこの天板、ケアホルムはなぜアクリルという合成素材を選択したのでしょうか。
ケアホルムというデザイナーは、素材に対して特別な、敬意と言えるほどのこだわりをを持ち、それらの性質について追及しつくしたうえで自身がデザインした形状に一番適したものを選択している、はず。
長方形の天板には柾目を生かして木材を、丸い天板には方向性のない大理石を、とすべてに理由があるのです。
PK71のデザイン
と、ここでデザインについて考えてみようと思います。
3つのキューブから構成されたPK71は、連続的に並べたり、無造作に配置したりとユーザーの思いのまままに使うことで完成します。
臆することなかれ、このテーブルはグラフックアートのように楽しんでもらうこと、そしてどのように並べても完成するデザインにその素晴らしさがあるのです。
PK71のサイズはそれぞれ1.5㎝違いのスチールの枠とそれに乗っている天板の見え掛りは5㎜。
5+5(スチール)+5(天板)は15という訳です。
まず枠が溶接であるという理由はこの極限まで細いスチールと、精密さが要求される正確な正方形にあることが理解できます。
すでに想像いただいているかもしれませんが、この立方体はのちにPK54ダイニングテーブルのベースのアイデアにつながっていきます。
ケアホルムはこの小さなスケールを大きな家具の基本形とみなし、考察を重ねながらその後のデザインに生かしました。
いわば、始まりのデザインです。
つまるところ、PK71のデザインの本質は、あくまでもこのスチールの枠にあったのです。
そしてアクリル。
ケアホルムのデザインにおいて合成素材はご法度と勝手に思っておりましたが、例えばOリング、これは樹脂製です。
OリングはPK80やPK33などに使用されているパーツで、スチールのベースとクッションを支える合板をジョイントする大切な役割があります。
合板の切り込みにうまく入り込み、ぐんと伸びてスチールを捕まえ一回りして戻ってくるような作業は樹脂でしか成し得ないでしょうし、軽量化、コストの面でも理にかなっています。
異素材の合板とスチールをジョイントするためにどのような硬さのビスを用いればよいかも難問だったと思いますし、たとえいかなる素材であろうともその上に乗るレザーのクッションにダメージを与えてしまうだろうことは容易に考えられます。
同じ方法で考えると、PK71の天板としてアクリルは
①軽量である(細いスチールの枠に対し大理石では重たすぎる)
②加工がしやすい(枠にかかる部分の切り欠き加工は精密さが求められる)
③丈夫である(美術品の保護ケースなどにはガラスではなくアクリルが用いられている)
増してや、あばれが生じやすい木材はこの緻密なデザインを台無しにしてしまうでしょう。
これらのことから、ケアホルムはPK71というテーブルの天板に敢えてアクリルという素材を選択したのだということが想像できるのです。
ケアホルム家との交流があり、数年前にケアホルム家を訪れたダンスクムーベルギャラリーのマネージャーから面白い話を聞きました。
ケアホルムが天然素材ばかりを扱っているというのは我々が勝手に思っているだけなのかもしれない。
本来新しい素材が好きだった人なので興味があれば何でも試したのではないかと思う。
実際に『今彼が生きていたら再生プラスチックとか使ったんじゃないかな』という話も聞いたし・・・
誰に?と聞くと
『クリスティーヌ(ケアホルムの娘)』
そりゃ、信憑性のある話だ。
ポール・ケアホルムの名作② PK91 フォールディングチェア
ポール・ケアホルムの名作③ PK54 / PK54A ダイニングテーブル
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