北欧を代表するデザイナーと作品たち②

以前ご紹介したコーア・クリントとアルネ・ヤコブセンに続き、今回も北欧を代表するデザイナーをご紹介します。

オーレ・ヴァンシャー Ole Wanscher(1903-1985)

コーア・クリントの愛弟子として

オーレ・ヴァンシャーは1903年にコペンハーゲンで誕生します。
機能性あふれる優雅なデザインでデニッシュモダンの流れに大きな足跡を残しました。
コーア・クリントが教鞭をとる王立芸術アカデミーの家具科に在籍し、コーア・クリントの元で愛弟子として2年間仕事をしています。

1928年には自身のデザイン事務所を設立し、家具デザインに専念し、品質の高い木材や革を使用して優美且つ機能的な作品を数多く手がけました。

コーア・クリント亡き後、彼の後継者として王立芸術アカデミーの家具科の教授にも就任します。
もう一人の愛弟子であるボーエ・モーエンセンやアメリカで活躍していたフィン・ユールも候補に挙がっていましたが、デザイナーとして活躍しながらも家具の研究著書も多かった彼が任命されました。
こうして彼はデンマークのデザイン界をデザイナーとして、そして教育者としても牽引していきました。

また、彼の家具にはコーア・クリントの愛弟子らしく、明確なルーツが存在し、そのルーツは世界にまで広がっていると言われています。
これは、美術史家であった彼の父から影響を受け、家具の歴史的な背景に興味を持ち欧州各国やエジプトなど世界各国を旅し各地で家具デザインを精力的に研究していたからなのではないでしょうか。

彼の作品は華奢なラインと動きを感じ取るフォルムとのバランスが絶妙に取られています。
削り出したローズウッドやマホガニーからなる細身のフレームと、革や馬毛を使用したシートが醸し出す雰囲気はエレガントで上品で、「一度座ると毎日腰掛けたくなる椅子」と高い評価を得ています。

1933年にはA.J イヴァーセン社の製作でシンプルでありながらも機能的なデスクを発表します。このデスクには恩師であるコーア・クリントに学んだ数学的アプローチを取り入れています。
このデスクはデザインコンペで賞を取っています。
その後、1940年にはチッペンデール様式の椅子をリ・デザインした椅子などを家具職人ギルド展に発表するなど、精力的に活動を続けました。

代表作をご紹介します。

①「ビークチェア」

ビークとはクチバシを意味します。

1951年にデザインされ、ルド・ラスムッセン社によって製作され、同年の家具職人ギルド展で発表されたアームチェアです。特に高い技術が求められるアーム部分は支えもなくフレームからストレートに突き出るようにデザインされています。このアーム部分の造形美と鳥の目を連想させるような木製ボタンが特徴的です。まるで止まり木のように美しいアームです。
当時は強度に不安があったことと製作技術面の問題から量産が持ち越しになってしまいましたが、カールハンセン社によって復刻されています。

②コロニアルチェア


コロニアルチェアは1959年にデンマークの家具ブランド、P.J.ファニチャー社より発表され、その後カールハンセン社に製造が引き継がれました。コロニアルのネーミングはデザイナーであるオーレ・ヴァンシャーが1700年代の英国家具に影響を受けていたことに由来しています。

彼は一般庶民向けの作品、機械での量産を前提とした家具もいくつか手掛けました。コロニアルチェアはその代表作として高く評価されている作品です。
優雅なデザインは保ちつつ、各部位が効率よく組み立てられるように考えられています。

背もたれと肘掛の接続部分や後ろ脚の曲線が美しく、そして後ろ脚を少しカーブさせることによってチェアに安定性を与えています。

接続部分
美しい脚の曲線


座面のクッションの下は手編みの籐編みになっています。

座面クッション下

機械での大量生産を考慮し、最終段階で枠に取り付けられるようになっています。

また背もたれのクッションも独立しており、背もたれ用のクッションを後ろ脚の上端に引っ掛けるためにつけられたリングがあります。このリングが椅子全体のアクセントにもなっています。

先に紹介したビークチェアと横からの写真を並べてみます。

機械での量産とはいえ、ビークチェアと共通して洗練された細いラインと優雅なフレームからヴァンシャーらしさが見られます。

③エジプシャンスツール

1957年にA.J.イヴァーセン社によって製作、発表されました。
他国文化の影響を多大に受けた、彼の代表的なデザインの一つです。
このエジプシャンスツールのルーツはエジプトのツタンカーメン王の墓墳から大量に発掘された副葬品に含まれていたスツールにあると言われています。
現代の椅子のもとになったとも言われており、権力を象徴した古代の椅子に感銘を受け、彼がドイツのベルリン国立博物館にて収蔵されているものを実測して参考にしました。このようなスツールは当時の高位な役人達が使用したと言われています。

何千年もの昔のデザインにインスピレーションを受け、1957年に新たにデザインされ、そして現代でも変わらず愛用されている。まさに家具の歴史を感じることのできる作品です。
こちらも他の家具と同様、美しい曲線を描いています。現在はカールハンセン社が製作販売しています。

後のデザイナーに影響を与える存在に

家具の研究にも秀でていたオーレ・ヴァンシャー。

彼は1932年に「MOBEL TYPER」を刊行しましたが、そこに掲載されていた中国の椅子の写真をみたハンス・ウェグナーは、そこから着想を得てチャイナチェアをデザインしたそうです。

彼もまた、恩師であるコーア・クリントと同じく後のデザイナーたちに大きな影響を与えたのです。

次回に続きます。