「北欧家具」と一言でいっても、デザイナーと作品は多岐に渡ります。この作品、見たことあるけど誰がデザインして何ていう名前なのかは分からない、、という方もいらっしゃると思います。
そこで今回のブログでは北欧家具を代表するデザイナーと作品についてまとめてご紹介したいと思います。
コーア・クリント Kaare Klint(1888-1954)
コーア・クリントはデンマークの王立芸術アカデミーに家具科を設立し初代教授を務め、オーレ・バンシャーやボーエ・モーエンセンなどの北欧家具を代表する多くのデザイナーを育てました。
ミッドセンチュリー期の礎を築き、「デンマーク近代家具デザインの父」とも称されるコーア・クリント。今でこそデザイン大国のデンマークですが、20世紀初頭までは無名に近いものでした。その潮目が変わった出来事、それがデンマーク王立芸術アカデミーに家具科が創設されたことでした。
過去にとらわれない物、斬新なものをデザインする「モダン主義」が主流だった時代に、彼は時代に流されず、昔からの職人技術を大切にし、伝統を切り離すのではなく新たに作り直すという考え方を実現しました。彼のその考え方は「リ・デザイン」と呼ばれています。
彼の代表作をご紹介します。
①「RED CHAIR」
1927年にコペンハーゲン市内にある「デンマーク工芸博物館(現デザインミュージアム・デンマーク)の講義室用にデザインした椅子が「RED CHAIR(レッドチェア)」です。
18世紀のイギリスのデザイナー、トーマス・チッペンデールのチェアをリ・デザインしており、革張りの背もたれと座面が特徴です。
もともと作られたのが赤色だったのでレッドチェアと名付けられましたが、バルセロナ万国博覧会で賞を受賞したことで、デンマークではバルセロナチェアとも呼ばれています。
トーマス・チッペンデールがデザインした家具は「チッペンデール様式」と呼ばれ、ロココ様式を主とし、中国風な様式も取り入れたデザインになっています。
横から見ると後ろ脚に猫脚のような曲線がデザインされています。この曲線は彼がでデザインした他のチェアにもよく見られます。
デンマークの工房、ルド・ラスムッセン社にて制作されていました。彼の作品の多くはルド・ラスムッセン社で作られており、工房のロゴも彼がデザインを手がけました。
ルド・ラスムッセン社は惜しまれつつも2016年に閉鎖になってしまいました。
②サファリチェア
サファリチェアは南アフリカを中心に、イギリス人がサバンナで狩猟活動をするときに使っていた椅子をリ・デザインした作品です。どんな場所でも使えるよう利便性を考慮し、分解した座面のキャンバス地に包むことで簡単に持ち運べる椅子でした。コーア・クリントはこの構造を現代の椅子として再生させました。現在はカールハンセン&サン社で製作されています。
③フォーボーチェア
1914年にフォーボー美術館の展示室用にデザインされました。
その後、この椅子は彼にとって最初に製品化された椅子となります。
フォーボー美術館は展示品だけでなく、建築・家具・什器など目につくものすべてを芸術品とする「総合芸術」を目指し、そのためにデザインされたのがフォーボーチェアです。
ラタンを用いた軽やかな見た目が印象的で、床の綺麗なタイルが見えるように背面と座面がデザインされています。ルド・ラスムッセン社にて製作されていました。
コーア・クリントの研究論文著者は、「コーア・クリントのフォーボーチェアはデンマークの転機を象徴するデザインであり、装飾的な家具が中心であった時代の家具とデンマークをデザイン王国にしたデニッシュデザインとの境に位置する作品である」と語っています。
④チャーチチェア
チャーチチェアは彼がシェーカーの家具と18世紀のオランダの家具に影響を受け、機能とシンプルな造形を目指して現代的にリ・デザインしました。1936年にベツレヘム教会を設計したときにデザインされたものです。フリッツ・ハンセン社にて以前、製作されていました。
アルネ・ヤコブセン ARNE JACOBSEN(1902-1971)
アルネ・ヤコブセンはデンマークの建築家、デザイナーです。
1927年にデンマークの王立芸術アカデミーの建築科を卒業しています。1929年、フレミング・ラッセンと共にコンペに向けてモダニズムの形式をとった未来の家を発表し、モダニズムの旗手の一人として一躍注目を集めてその名が有名になります。また、教育の場でも貢献し、1956年から1965年の約10年間、デンマーク王立アカデミーの教授を務めました。
①家具
アントチェア・セブンチェア・エッグチェア
北欧家具の象徴ともいえる作品を数多く生みだしたことで有名なのがアルネ・ヤコブセンです。フリッツ ハンセン社にて製作されています。
エッグチェア・スワンチェア
彼は家具だけでなく、照明やカトラリー、時計など数多くのジャンルのプロダクトデザイナーとして活躍し、たぐい稀な才能を発揮しました。彼は家具単体で見るのではなく、空間を包括的にとらえることにこだわり続けました。
②「AJランプ」
AJシリーズはテーブルランプ、フロアランプ、ウォールタイプなどがありますが、こちらのシリーズは彼がプロデュースを手掛けたSASロイヤルホテルのためにデザインされたもの。
その翌年、ルイスポールセン社によって製品化されています。
③「テーブルウェア シリンダライン」
1964年に、ステルトン社の社長に就任したPeter Holmblad(ピーター・ホルムブラッド)が、新たなデザインなしにステルトン社は残れないという考えのもと、義父であるアルネ・ヤコブセンにデザインを依頼したことが「シリンダライン」の出発点となります。
依頼を当時断り続けていたいたヤコブセンですが、ホルムブラッドがあきらめずに何度も依頼し続け、根負けしたヤコブセンは「デザインとはこういうものだ」と夕食時に手元にあったナプキンにスケッチしました。
それが原型とされており、その後ステルトン社は彼の描いた継ぎ目のない美しいフォルムを実現するために独自のステンレス技術を生み出します。半年ほどの計画だった開発期間は三年に延びたそうです。
シリンダラインシリーズのテーブルウェアは世界各国の近代美術館が永久コレクションに選定するなど、まさに名作です。現在もステルトン社から販売されています。
④水栓
1968年、オーナーのベルナー・オーバーガードが当時デンマーク国立銀行のコンペティションで優勝したアルネ・ヤコブセンに連絡を取り、全く新しい壁付けの水栓を提案したことがきっかけとなり、Vola社から発売されています。エッグチェアやセブンチェアを連想させる絶妙な曲線とかわいらしいデザインになっています。
⑤「テキスタイル」
アルネ・ヤコブセンは第二次世界大戦中、スウェーデンに亡命しており、建築デザインもプロダクトデザインもできない時期がありました。
そんな折手掛けていたのがテキスタイルデザインです。
当初はもともとの草花好きが講じて優しい草花のモチーフでしたが、その草花モチーフもだんだん変化して幾何学模様のスタイリッシュなデザインが出来上がっていきました。
昔にデザインしたとは思えないスタイリッシュさです。
次回に続きます。