先日、中之島美術館にGUTAI(具体)の展覧会「GUTAI 分化と統合」の分化編に行ってきました。
GUTAI 具体とは
1954年、関西抽象美術の先駆者である吉原治良をリーダーに、阪神地域在住の若い美術家たちで結成された前衛美術グループ。
「人の真似をするな、今までにないものをつくれ」をコンセプトに、奇想天外な発想でユニークな作品を次々に輩出。フランスの評論家によって絶賛され、現在では日本の戦後美術を語る上でもっとも重要なアートムーブメントの一つになっています。
以前のブログで中之島美術館についてご紹介しています。
展覧会に
いざ美術館の中に入り、4階へと続く細長いエスカレーターに乗りました。
高所恐怖症の私は下を見ないように手すりにしっかりとつかまってドキドキしながら4階へ。
4階につくと
等身大サイズの向井修二さんの作品「アバター」が元気に出迎えてくれました。
このアバター、いろいろな場所に合計5体設置していました。全てに挨拶してきました。
今回、中之島美術館で開催されている展覧会のテーマは具体の「分化」で、「具体はやはり多様である」という結論を導き出すことではなく、多様であることを前提とし、どのような表現が受け容れられてきたのかを最大限可視化することによって、具体というグループの本質に迫ろうというものです。個々の作家の作品に触れオリジナリティを「分化」し、そして第一章「空間」、第二章「物質」、第三章「コンセプト」、第四章「場所」という4つのキーワードに沿って紐解いてく構成でした。
第一章:空間
会場に入ると会場内はとても広々と天井も高く、大きな作品がすっきりと見える空間でした。
まずはじめに目についたのが同じく向井修二さんの作品。
向井修二(1940年-)
作者の言葉が解説とともに載っていました。
「私の頭の中は記号だらけ、耳から鼻から目から記号が溢れかえっている。こんどはビルやら山やら空やら空気やら言葉やら、地球も宇宙もすべて向井式記号落書きをしてしまいたい」とコメントに書いてありました。とにかく記号が溢れかえっていることは十分に伝わってきました。確かにアバターも洋服も記号だらけです。また、会場前の4階のトイレに入った際、トイレの「空間」すべてが記号で溢れかえっていてびっくりしたのですが、そういうことだったんだ!向井式記号落書きをトイレの空間に施したということか!と繋がりました。(写真をとっていいのか分からず、撮れませんでしたが、とにかくトイレの空間が記号でいっぱいでした)
その後すぐに静かな空間にジリジリジリッという大きな音が鳴り始めました。
音の出どころを探してみると、これも作品の一つで、「ベル」という作品から出ている音。田中敦子さん(1932-2005)の作品です。べルを押すと会場の床の隅に等間隔にいくつも並べられたベルが一つずつ順番に鳴り響くという仕掛け。
静かな空間にベルの音が近くから遠くへ音の動きとともに響きわたっていました。大きな音が動くことで自然と「空間」を認識する作品でした。
ベルの音を聞きながら右を向くと、これまた独創的なテープの山がありました。
吉原通雄さんの作品です。
吉原通雄(1933年-1996年)
あまりのボリュームに目を奪われ、ギリギリまで近づいてみました。こんなに長い紙がもともとあってそれを切っているのか、それとも何本かのテープをつなぎ合わせているのか不思議でしたが、高さのある作品が空間を支配していました。
これらの作品はまさに「空間」を意識した具体の表現ではないでしょうか。
第二章:物質
第二章の「物質」に進みます。
具体の作品は、具体美術のキーワード「人のまねをするな、今までにないものを作れ」という通り、さまざまな物質を使って表現されています。
流れる絵具や工業用製品などの様々な「物質」を生かしながら作者の精神を生かすことができた作品こそが具体の作品といえる、と書いてありました。
私が分かりやすかったのが吉原治良(1905年~1972年)さんの作品と堀尾貞治(1939年~2018年)さんの作品です。
これらの作品はプラスター(石膏、漆喰、土などを水で練って左官の塗り仕上げに使うもの)や、石膏、布などで表現されており、まさに物質を生かした作品でした。
また、嶋本昭三さんの作品も圧巻でした。
嶋本昭三(1927年‐2013年)
この作品は中之島美術館が所蔵している作品で嶋本昭三さんの代名詞でもある瓶投げ作品です。ガラス瓶に絵の具を詰め、それを床に置いたキャンバスにたたきつけて制作していきます。砕け散ったガラス瓶の中の絵具は飛び散り、それを何色も何回も重ねて完成します。
横の作者のコメントに「えのぐを絵筆から解放してやるべきだ、絵筆は折られ、捨てられなければえのぐの解放はありえない。絵筆を捨ててはじめてえのぐは甦るのだ。絵筆に変わるものとしてあらゆる道具を動員すべきだと思う」と書いてありました。
まさに「物質=えのぐ」を生かしながら「作者の精神=えのぐを絵筆から解放し、新しい道具を用いるべき」を生かした作品なのではないでしょうか。
解放された黄色いえのぐがまるで上から降ってきそうでした。
第三章:コンセプト
第三章では「コンセプト」が製作の中心となった作品を展示していました。
白髪一雄(1924年-2008年)
白髪一雄さんはフットペインティングというオリジナルの技法を用いて制作されます。
キャンバスを床において、天井から垂らしたロープにしがみつきます。そしてキャンバスの上に置いた絵具を裸足で踏みながらキャンバスの上を滑走して描くのです。
生きた美術を表現することを追求するためにその技法を確立しました。これも他にはなく人のまねでない表現方法です。
他の画家の方の抽象画と写真で見ると大差がないように見えますが、近くでみると指の足で踏ん張ったような跡が見えたり、角度によっては立体感があったり。それがフットペインティング独自の表現方法です。
フットペインティングというインパクトのある表現方法に意識が向きますが、このアクション自体が強力な「コンセプト」であると捉えられると分析されていました。
確かにフットペインティング自体が強烈ですが、そういう捉え方もできるのですね。
第四章:場所
第四章では具体作品の屋外や舞台の上での展示に触れていました。
1960年に大阪市内のなんば高島屋の屋上で開催された「インターナショナル スカイ フェスティバル」。
これは作品の下絵を拡大してアドバルーンに吊って展示した催しです。
吊るされた作品の中には飛んで行って帰ってこなかったものもあったそうです。
なぜインターナショナルかというと、参加したのが具体のメンバーだけでなく、海外のアーティストも下絵を送り参加したから。
この作品たちの作品の舞台は空。通常の作品の発表の場所は真っ白な壁に囲まれた空間、例えば美術館や画廊といったところなのに対し、空という特殊な「場所」を舞台に選ぶことで、見る者に少なからず影響を与えます。
ここでは、この「インターナショナル スカイ フェスティバル」の写真記録などが展示されていて、さらには5日間限定で「インターナショナル スカイ フェスティバル」の再現が11/15~11/20まで行われました。
このように一つずつテーマに沿って紐解いていくと具体はただ単純に各々に多様性を求めたグループであった、ということだけでなくそれぞれの作家たちが強い意思やコンセプトをもって集まったグループであることが少し見えたように感じました。
最後にはしっかり図録を購入し、ジャイアント・トらやんに挨拶をして帰路につきました。
この中之島美術館と同時に国立国際美術館でも「具体ー統合編」が開催されていますので、そちらにも行ってみようと思います。またその時はブログにアップしたいと思います。
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