位高ければ務め多し

takezoです。


先ごろ英国のロイヤルウェディングのTV中継があって話題をさらった。明眸皓歯。ケイトさんのこぼれるような笑顔はウェディングドレスの美しさと共に世界の目を釘づけにした。ウィリアム王子は現役の空軍大尉で式明けには軍活動に戻ると言うことだった。アイリッシュ・ガーズの赤い士官服姿が物語っているのはロイヤルファミリーであっても最前線で国民のためにいついかなる状況にあっても、務めを遂行することを象徴しているかのようだった。昔から王侯貴族はより多くの義務を負うものとして「noblesse oblige」の言葉がある。上流社会の美徳を表す誇り高い言葉であった。福祉社会の進展や政治形態の変化で、現代においてはいささか死語となっている感はあるが歴史の中に生まれた、人の尊厳を表す、美しい言葉であると思う。

現代では富裕者、有名人なども社会的貢献を率先する習わしへと変化してきている。この度の震災時には多くの著名人達が義援を惜しまなかった。又通信技術の発達で災害の様子が迅速に伝わって、世界の国々でスピーディな募金活動が起こり個人の意思が大きなクラウドのようになって支援が多く寄せられたことは国境を越えたヒューマニティが存在していることを改めて教えられた。グローバル化という事はビジネスの話だけではないということを。

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アイルランド連隊の赤い士官服にブルーのサッシュ

この「noblesse oblige」は日本ではどのように翻訳されているのだろうか。「位高ケレバ務メ重シ・・・」と明治時代に訳されて、その頃、嵐のように西欧化にまい進していた為政者たちは、貴族精神までを輸入、コピーしようとしていたようだ。開高健の本でそれにまつわる面白いエピソードが紹介されている。

話は変わるが、赤坂一ツ木通りに「木家下BAR」がある。木家下玲子さんが今はこの城を守っている。行きつけていた開高健が亡くなった先代のオーナー・バーテンダー、木家下正敏さんとレシピをつくりあげたというマティニーは極上品だ。開高健がベトナム戦線を取材していた頃、旧サイゴンのマジェスティックホテルのスカイBARでいつも飲んでいたと言う特別なカクテルが元になっているという。カクテルの王といわれるマティニーについてはグルマン開高のうるさい好みがたくさんこめられていると言うシロモノだ。先代がご存命の頃、長谷さんという黒服が居て、BARの扉を開けると間髪を入れずに客の名を「いらっしゃいませ◎◎さん」と挨拶するという暖かいサービスが心地よかったものだ。客の名をすべて覚えているなど、たいした記憶力だった。今はもうお二人ともこの世には居ない。


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フレンチコロニアルのマジェスティックホテル(ホーチミン)


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幻のマティニィー

開高健がいつも座ったと言うカウンターのメモリアルシートには真鍮のプレートが貼ってある。彫刻された「noblesse oblige・・・位高ければ務め多し」は、これは開高健のペンになるものでそのまま彫られている。皆が触るのでてかてかと輝いている。ここであの知的で豪快な饒舌が響き渡っていたのだろうと思いをはせれば酔いが進む。


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「位高ければ務め多し」という言葉が今も人々の頭に残っているとすれば、開高健の名訳によっているのだろう。この一枚のプレートがいつまでも伝え続ける事だろう。極上のマティニーに酔いながら古典の言葉を思うひと時が有ってもよい。



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店内の一角にある著作コーナー


(takezo)





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